妙高村には、もぐさ観音とよばれるものが二ヶ所あります。大鹿と上樽本にあり、大鹿のもぐさ観音は毎年5月18日に、もぐさ団子を供え、法逢寺の住職の読経により無病息災を祈念しています。上樽本のもぐさ観音は4月18日に、よもぎ餅や赤飯を食べながら、この地の開村に関係ある小出家と上樽本の人達が観音堂に集まりお参りをしています。守り本尊の観音像は信濃の国田上の分霊といわれており小出家三代目吉親が信濃守に国替えをした後、(1630年ごろ)この地に来る時に一緒に来たものではないだろうか。
「もぐさ」とは、ヨモギから作るお灸にはなくてはならないものである。ヨモギは畦や草地にある多年生でキク科の植物です。葉は大変よい匂いがして繊維の染色にも使われる。ひな祭りには草餅にして食べたり、端午の節句には軒先につるして病魔を払う。子供の健やかな成長を願う大切な節目に、ヨモギは古くから利用されてきました。茎や葉の裏には密に絹毛があり、白いこの毛を集め「もぐさ」を作る。このほかヨモギ酒やヨモギ風呂、煎じ薬などに利用され、健康維持や病気予防に重宝な有効成分をもっています。雪が解け最初に芽を出すのがヨモギであります。ヨモギには、ビタミンや蛋白質が多く含まれるので長い冬を過ごした人々には新鮮な栄養源となっていたのでしょう。ヨモギは日本的なものに思われるが、ヨーロッパからアジアにかけ広く見られ、ローマ時代の伝説の中に「ハーブの母」として出て来るくらい、薬草としても古くから親しまれて来ています。ヨモギという名称は、善燃草(よもぎ)「よく燃える草」という意味があるくらい、乾燥した葉は毛がたくさんあるので火付きがよく、昔は木をこすり合わせて火種を起こすのにも使われたのかもしれない。しかし名称の由来はわかっていないが源氏物語にも「蓬生」(よもぎ)と書かれている。
日本での端午の節句は、奈良時代から続く古い行事である。端午というのは、もとは月の端(はじめ)の午(うま)の日という意味で5月に限ったものではなかった。午(ご)と五(ご)の音が同じなので、毎月5日を指すようになりそののち5月5日になったと伝えられています。
古くには季節の変わり目である端午の時期は病気にかかりやすく、亡くなる人が多かったこともあり5月を「毒月」と呼び、病気や災厄をさけるために様々な行事が宮廷で行われた。薬草摘みや蘭を入れた湯を浴び、菖蒲やヨモギを浸した酒を飲んだり、厄除けの菖蒲をかざり、ヨモギとともに軒にさし病魔を払うものとしたり、また皇族や臣下の人達には蓬(ヨモギ)などの薬草を配り、悪鬼を退治する意味で、馬から弓を射る儀式も行われていたようです。
古来行われていた宮廷での端午の節句の行事も、鎌倉時代からの武家政治へと移り変わるにつれ次第にその容は変わって行き、菖蒲が「尚武」と音が通じるために武士の間には、尚武(武を尊ぶ)の気風が強く、端午の節句を尚武の節目として祝うようになったのです。
ヨモギは薬草として、病魔の厄除けとして使われてきたことから樽本地区においても、小出家が入植した1600年代には、戸隠講の前身となる戸隠からの山伏、あるいは修験徒が薬草などの知識を持ち込んだとも考えられる。それは「烏おどり」が伝えられた年代でもあるからです。
では、「もぐさ」の意味はどこにあるのだろうか。
お灸で慢性疾患などの治療に利用したのは、古くからあったものなのか、修験道の修徒たち独自の知識として各地に伝えられたものか。薬草として呼ぶときに「もぐさ」と言ったのか。よもぎの若葉をもちにいれ「よもぎ餅」を作るため、別名「もちぐさ」とも言う。またよもぎは、地下茎などから他の植物の発芽を抑制する物質を分泌する。よもぎは地下茎で繁殖するので密生して繁殖し茂るようになる草「茂草」とも考えられています。
いずれにしても、「もぐさ」=「よもぎ」のもつ様々な薬効や厄除けと阿弥陀如来の化身と考えられている観音菩薩に対する信仰とがいつからか結びつき、無病息災、家内安全を願う「もぐさ観音」を作り出したのでは。またはもともとの観音菩薩への信仰の中に、農作業の始まりを祝い、端午の節句にまつわる行事の中の「もぐさ」を供えたことから、何時しか「もぐさ観音」と呼ばれたとも考えられます。
新井地区、下平丸西脇の諏訪神社「もぐさ観音堂」があります。
この「もぐさ観音」は高さ44センチで、戦国時代に作られたと推定されていて、御尊体がインドのもぐさという木で彫刻されているとも伝わっています。毎年雪解けが進み、新緑が芽吹く4月に春を呼び農作業の始まりを知らせる祭り「もぐさ観音まつり」が行われる。昔からお灸の原料で慢性疾患の治療に使われてきた「もぐさ」と人々を救う「観音菩薩」の信仰が結びつき「もぐさ観音」と呼ばれ、「もぐさ」の新芽を摘んで、だんごや餅を作って供え、お祝いをしています。
「もぐさ観音」は、三ヶ所とも同様な成り立ち、性格を持っているものと思われる。樽本地区と平丸地区は古代の街道でつながりがあり、また戸隠講でのつながりがある地域と思われます。
薬用には、6~7月ころ根元より刈り取るか、または、葉のみを採取し陰干しにしておく。お灸には葉の部分を手でよく揉み、粉となった部分を捨て、残った葉の毛だけを集め使う。腹痛、胃痛、貧血などには、葉の部分を、1日5=15グラム煎じて服用、また、全草500グラムを袋にいれ煮た後、その液を風呂に入れると腰痛、頭痛、痔などに効き目があります。